自己破産をする際に知っておくべき財産「破産財団」とは?
自己破産の際、破産者に一定の財産がある場合は、その財産は換価処分され債権者に配当されます。
破産手続開始決定後は、破産管財人が財産を管理、処分する権限を持ち、破産者はその決定に従わなければなりません。
破産財団とは、この破産管財人によって管理、処分される財産のことで、破産手続の中ではよく出てくる用語です。
今回は、破産財団について詳しく解説します。
このコラムの目次
1.破産財団とは
破産財団とは
「破産者の財産、相続財産もしくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理、処分をする権利が専属するもの」(破産法第2条第14項)
と定義されています。
「財団」と聞くと、何かの団体、組織を連想しがちですが、破産財団は「破産管財人が集めた換価処分すべき破産者の財産の集合体」のことであり、人の集団ではありません。
ただし、破産者の財産の全てが破産財団に属するわけではありません。
破産者の財産は破産財団に属するものとそうでないものがあり、属する場合は破産管財人によって管理、処分、配当されますが、属さない場合は処分も配当もされません。
つまり、破産財団に属さない財産は、手元に残すことができるのです。
よって、ある財産が破産財団に属するか属さないかというのは、破産者にとって非常に重要であり、破産手続の際には必ず押さえておきたい知識なのです。
2.破産財団に属する財産とは
では、破産財団に属する財産とはどのようなものでしょか?
破産手続きの目的は、債権者に可能な限り多くの金銭を弁済・配当することにありますが、一方で、破産者の経済生活の再生を目指す機会の確保にもあります。
よって、破産財団の内容についても、債権者への配当と破産者の経済的再生を両立するための配慮がなされています。
破産財団の内容は以下の通りです。
(1) 換価価値のある財産
破産管財人によって破産財団に組み込まれるのは、「財産」であることが前提です。しかし、換価できるものでなければ対象になりません。
換価できるものは特定の「物」に限らず、お金に変えられる権利や債権など観念的なものも含まれます。
反対に、物であってもお金に変えられないようなものは破産財団には含まれません。
また、多くのケースでは自由財産の拡張により、資産価値が20万円以下のものは破産財団には入れません。
(2) 破産手続き開始時に破産者が所有している財産
破産財団に組み込まれるのは、破産手続開始時点で破産者が所有している財産に限ります。それ以降に取得した財産は含まれません。
また、それ以前に所有をしていて、破産手続開始時には手放している財産も含まれませんが、否認権を行使された場合は、破産財団に強制的に入れられることもあるので注意が必要です。
(3) 差し押さえが可能な財産
破産財団に組み込まれるのは、差し押さえが可能な財産に限ります。
差し押さえ禁止財産については後述します。
(4) 自由財産ではない
差し押さえ可能な財産は基本的に破産財団に組み込まれますが、その全てが対象となる訳ではありません。
破産者の財産でも自由財産に属するものは、破産手続後も破産財団に組み込まれず、破産者が自由に扱うことができます。
3.破産財団に属する財産の具体例
破産財団の規定は抽象的なので、以下では、該当するものを具体的にあげていきます。
(1) 現金、預金
現金・預金は破産財団を形成します。預金については20万円以上、現金については99万円を超える額が破産財団に組み込まれます。
ただし、預金は他の財産との合計で規定を超えると没収対象となることもあるので、予め現金化しておく方がよいでしょう。
(2) 自動車
自動車については、自動車ローンが残っているか否かで扱いが異なります。
ローンが残っている場合は、通常は完済まで車の所有権がローン会社に残っているので、自己破産をしたら車はローン会社によって引き上げられます。
ローンが残っておらず、生活をする上でどうしても自動車が必要な場合は、裁判所に事情を説明して所有を認めてもらうこともできます。ただし、高級車でその主張が認められることはありません。
東京地裁の例では、車の資産価値が20万円以下の場合は自由財産として認められ、手元に残しておくことができます。
(3) 住宅、土地
住宅、土地などの不動産は個人が所有する財産では最も高価なものなので、基本的に破産財団に組み込まれます。
ただし、不動産については住宅ローンを組む際に、債務者が万が一返済できなくなった時のために抵当権を設定していることが多く、返済不能になった時点で競売にかけて返済に充てる仕組みになっています。
自己破産は債権者平等の原則がありますが、抵当権がついている債権は別除権があるので、破産手続きに関わりなく無担保の債権に優先して支払いを受けることができるのです。
また、不動産でも買い手のつかない山林などは没収しても換価できず、固定資産税の負担だけ抱えることになるので、敢えて破産財団に組み込まないこともあります。
よって、住宅、土地が実際に破産財団に属するかどうかはケースバイケースとなります。
(4) 退職金
破産財団には退職金も属します。
退職金については破産時に受け取っていない人が大半だと思いますので、もらっていないお金が没収対象となるのはピンとこないかもしれません。
しかし、もし先月退職して、退職金を受け取ったがために没収される人がいる一方で、来月退職予定だけど、まだお金を受け取ってないから没収はされない、ということがあればあまりにも不公平です。
よって、破産法ではこうしたことが起こらないよう、「破産手続き開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は破産財団に属する」(破産法34条2項)と規定されており、もらうのはずっと先でも、将来の退職金を破産財団に組み込むことになっているのです。
しかし、退職時期によって退職金の評価額は異なります。
①退職がまだ先の場合
退職がまだ先の場合は、仮に今すぐ退職した場合に支払われる退職金の見込額を算出し、その1/8の額が破産財団に組み込まれます。
ただし、その額が20万円以下の場合は没収されることはありません。また、20万円を超えても他の財産と併せて99万円を超える場合は、超えた部分の額に達するまで毎月積み立てして、その積立金を債権者に配当するのが一般的で、そうすることで退職金を守ることができます。
②もうすぐ退職する場合
もうすぐ退職する場合は、最大金額の1/4の退職金見込み額が没収対象となります。
退職金は生活の糧となる債権なので、法律で3/4に相当する部分は差し押さえを禁じられており、最大でも1/4しか差し押さえることができません。
まだ退職予定がない段階では、債権者もいつ回収できるか分からない債権なので1/4の更に半分の1/8とされていますが、間もなく退職という場合には法律で認められる最大額が没収対象となります。
③既に退職している場合
既に退職をして退職金が支払われている場合は、①、②のように退職金債権としてではなく、現金・預金の扱いになります。
よって、その全額が評価の対象となり、自由財産を超える部分については破産財団となります。
(5) 保険の解約返戻金
生命保険の解約をしたときに戻ってくるお金を解約返戻金といい、掛け捨てタイプでない場合はお金が戻ってくることもあり、その場合は破産手続で資産として扱われます。
解約返戻金は基本的に換価処分が必要で、今すぐ保険の解約をした場合に保険解約返戻金が20万円を超える場合は破産財団に属します。20万円を超えない場合は解約の必要がなく、返戻金が没収されることがありません(東京地裁の場合)
複数の保険に加入をしていて、それぞれの解約返戻金が20万円以下でもトータルで20万円を超える場合は解約、没収対象となるので注意が必要です。
(6) 敷金返還請求権
破産財団には将来の請求権も含まれるので、賃貸契約で敷金を払っている場合は、破産管財人は賃貸契約を解除して、敷金返還請求権を換価処分することができます。
しかし、今住んでいる住居については賃貸契約を解除されることはありません。敷金を払ったばかりに破産と同時にアパートを追い出されるかも…ということにはならないので安心してください。
なぜなら、居住用不動産の賃貸契約を解除すると、破産手続の目的である経済生活の再建が脅かされるため、住居の敷金返還請求権については20万円を超えたとしても全額が自由財産とされるからです。ただし、あまりにも高額な敷金については扱いが別になることもあります。
4.破産財団ではない財産(自由財産)について
破産をしたら原則財産は債権者に配当されますが、生活をする上で必要最低限のものは手元に残すことができます。その財産を自由財産といい、破産後も引き続き使うことができます。
自由財産は個人の破産のみ認められているもので、法人破産の場合は手続終了とともに法人が消滅するため自由財産はありません。
自由財産に該当するものは以下の通りです。
(1) 新得財産
破産財団に組み込まれる財産は、破産者が破産手続時に所有している財産に限られるので、手続き開始後に取得した財産については新得財産になり、自由財産として扱われます。
(2) 99万円以下の現金
99万円以下の現金は自由財産として扱われます。対象となるのはあくまでも「現金」であり、預貯金については扱いが別になります。
(3) 差し押さえ禁止財産
以下の生活に必要なものは差し押さえが禁じられており、自由財産として扱われます。
- 生活上必要な衣類、寝具、台所用品などの身の回り品
- 1か月の生活に必要な食料および燃料
- 標準世帯の2ヶ月分の生活費に相当する金銭(66万円まで)
- 自営業に必要な道具、材料など
- 職人に必要な器具
- 債務者に必要な日記、帳簿、系譜など
- 仏像、位牌など祭祀に関わるもの
- 勲章、実印、子供の学習道具、未発表の発明、著作など
その他、年金や生活保護の受給権も差し押さえは禁じられています。
また、給与や退職金債権の3/4に相当する部分も差し押さえ禁止財産とされます。給与については33万円を超える場合は超えた分は差し押さえの対象となる場合もあります。
ただし、1/4でも没収した場合に生活が立ち行かなくなる場合には、自由財産の拡張の扱いになることもあり、現実的には給与が余程高額でない限り、給与債権が換価されることはありません。
(4) 自由財産の拡張がなされた財産
自由財産では99万円までの現金が認められていますが、現実的に破産する人で99万円もの現金を持っている人は少ないでしょう。
よって、自由財産の拡張を申立することで、99万円の範囲であれば、他の現金も併せて自由財産として認められることもあります。
(5) 破産財団から放棄された財産
山奥の不動産や、一部マニアにしか価値を持たないものは、換価処分も容易ではありません。
その場合、破産財団に組み込むと却って負担になることから、破産財団から除外され自由財産として扱われます。
5.まとめ
破産財団に属するかどうかについては、細かなルールがあり、厳密には一つずつ確認していかなければなりません。
該当するかどうか微妙なケースについては、破産に詳しい弁護士でなければ判断が難しいので、その場合は泉総合法律事務所にご相談下さい。
泉総合法律事務所では、自己破産の実績が豊富にございますので、破産財団のことについてもきめ細やかに対応させて頂きます。
債務整理のご相談は何度でも無料となっておりますので、どうぞ安心してご相談ください。
-
2019年11月21日債務整理 子どもの個人再生で親ができることはある?
-
2019年4月25日債務整理 銀行口座への自己破産の悪影響とは?対策も紹介!
-
2019年12月10日債務整理 自己破産後に住宅ローンは組める?