個人再生でスマホやパソコンはどうなる?
個人再生手続は、借金などの全ての金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)を、原則として全て減額することができる債務整理手続です。
一部とはいえ借金を返さなければいけませんが、自己破産手続のように裁判所により財産が処分されることはありません。
もっとも、まったくデメリットがない訳ではありません。自己破産手続で裁判所により処分される財産相当額以上を返済することが義務付けられていますし、損害を受ける債権者に対して公平な対応をしなければならないために、不都合が生じることがあります。
ここでは個人再生手続のデメリットが、情報化社会の中で不可欠な財産となっているスマホやパソコンにどのように現れてしまうのか、また、その対策について説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続をするうえでのポイント
- 個人再生をしても支払わなければならない金額
- 債権者に公平な対応をしなければならないルール
この2つのポイントは、一般的に個人再生をするうえで、そして、スマホやパソコンに関して大きな問題になります。
(1) 個人再生をしても支払わなければならない金額
個人再生手続では、借金の一部を原則3年(最長5年)で返済する「再生計画」を裁判所に認可してもらい、返済負担を減らすことになります。
再生計画での返済額は、一般的に用いられる手続においては、
- 最低弁済額:借金の金額に応じて法律が定めている金額
- 清算価値:自己破産したとしたら債権者に配当されると見込まれる債務者財産相当額
の2つのうち、より大きいほうの金額とされます。
再生計画が裁判所に認可されるには、再生計画に基づく支払いが現実に可能と見込まれることが必要です。この「再生計画の履行可能性」が認められなければ、再生計画に基づく返済はできません。計画認可後に計画に従った返済ができれば残る借金は免除されますが、失敗すれば、残る借金が復活してしまいます。
ですから、個人再生を成功させるためには、収入が十分あることはもちろんですが、再生計画での返済額を低く抑えることも大切になります。
(2) 債権者に公平な対応をしなければならないルール
「債権者平等の原則」。個人再生手続の中で、債務者の障害となる様々な問題点を引き起こす、しかし手続上重要なルールです。
個人再生手続は、公的機関である裁判所が債権者に損害を与える債務整理手続ですから、被害を受ける債権者たちは、せめて公平な取り扱いを受けなければならないとされています。
債権者平等の原則があるため、「すべての債権者を手続の対象としなければならない」「特定の債権者にだけ優先的に返済すること(「偏頗弁済」と呼ばれています)は許されないという、債務者にとって障害になりやすいルールが生じます。
2.個人再生でスマホを解約されてしまうケースと対策
個人再生手続によりスマホに関して問題が生じるかは、通信料を滞納しているか、また、スマホ本体代金を完済しているかによります。
通信料の滞納はなく本体代金も完済済みなら、基本的に心配は不要です。滞納あり、または完済済みではないというとき、回避手段や対応策があるとはいえ、スマホの価値を損ねる大きな問題が生じます。
(1) 通信料の滞納や本体代金が未完済なら解約
滞納している通信料や未払いのスマホ本体代金を債務整理してしまうと、携帯会社はスマホの通信契約を解約してしまいます。自宅のWi-Fiを利用してインターネットにつなぐことはできますが、外出中に手軽にインターネットを利用できるスマホの利点は無くなってしまいます。
特にスマホ本体代金には注意が必要です。通信料と一体となって請求されるため実感がわきにくいですが、本体代金の割賦払いは、れっきとした借金の返済です。
通信料と異なり、滞納の有無は関係ありません。契約通り支払っていても、割賦払い残高が残っていれば携帯会社から借金をしたままなのです。
かといって、携帯会社だけを手続から除外することはできません。債権者平等の原則があるため、個人再生手続では、全ての債権者を対象としなければいけないのです。
そして、手続の前に携帯会社に滞納通信料や未払いの本体代金を支払うことも、債権者平等の原則に反する偏頗弁済になってしまいます。
偏頗弁済の金額は清算価値に上乗せされてしまうため、再生計画での返済額が膨らんでしまうおそれがあります。偏頗弁済に充てられた債務者の財産は、本来、自己破産手続では債権者に配当されるべきものだからです。
そのため、後述する対策をしなければ、にっちもさっちもいかない状況に追い込まれてしまいます。
(2) 解約されないようにするための方法
携帯会社からの解約を避けるには、弁護士に裁判所を説得してもらう・他人に代わりに支払ってもらう、という対策方法があります。
弁護士に裁判所を説得してもらう
債務者の経済的生活の更生を図るための個人再生手続をしたことで、生活に不可欠なスマホを失ってしまうことは、債権者の利益を考慮する必要もあるとはいえ、本末転倒です。
そのため、滞納通信料や割賦払いが非常に少額であれば、裁判所によっては偏頗弁済としないこともあります。
もっとも、債権者平等の原則に反することに変わりはありませんから、上手くいく保証はありません。この手段を考えるにしても、弁護士に滞納している通信料やスマホ本体代金の残額を正確に報告し、申立先の裁判所の運用や傾向について助言を受ける必要があります。
裁判所を説得するには、法律や裁判所の運用をよく知っている弁護士に任せるべきです。
他人に代わりに支払ってもらう
第三者弁済と言って、債務者以外の第三者が代わりに支払いをすることは、偏頗弁済となりません。債務者からお金が出ていかないからです。
実務上、頻繁に用いられる手段で、大抵の場合は、親族に支払ってもらうことになるでしょう。
同居の家族に支払ってもらう場合、「債務者が親族名義で支払っているだけで、事実上は偏頗弁済ではないか?」と、裁判所に疑われる可能性があることにはご注意ください。
(3) スマホを解約されてしまったら
以前利用していた携帯会社とは再契約できません。かといって、他の携帯会社に鞍替えしようにも、ブラックリストに登録されている5年間は、他の携帯会社との契約することは難しいでしょう。
SIMフリーのスマホを持っていれば、SIMカードの交換をすれば、解約後すぐにスマホを使えるようになります。しかし、現在の日本ではさほどSIMフリーのスマホは普及していません。
現実的な解決策としては、プリペイド携帯がよいでしょう。プリペイド携帯は通信料を先払いするものですから、ブラックリストの問題が比較的生じにくいのです。
3.個人再生時に高価なパソコンを所持している場合の注意点
一般的に、パソコンはスマホよりも高価なものです。そのため、スマホではさほど問題にならなかった「清算価値」に関して注意が必要になります。
(1) パソコンを手続前に売却してはいけない
清算価値が再生計画の返済額の基準となっていますから、債務者は、個人再生をしても清算価値以上の金額を債権者に支払う必要があります。
清算価値は自己破産したときに債権者に配当される金額ですから、債権者は自己破産の場合よりも損害を抑えることができます(「清算価値保障の原則」と呼ばれています)。
もし、高額なパソコンを安易に売却や譲渡すると、清算価値が減ってしまいますから、債権者に損害を与えることになります。
このようなことは、最悪犯罪になってしまいますし、そこまでいかずとも、債権者を害する悪質な違法行為として手続ができなくなるおそれがあります。
手続の前にパソコンを売却したとしても、正直に申告して、その時価を清算価値に含めれば、問題とされないで済むこともあります。
個人再生手続による返済は3年~5年、1か月ごとの支払なら36回~60回の長期分割返済です。パソコンが清算価値に含まれるとしても、その時価は2~30万円程度ですから、よほどパソコンが高級でない限り、月1万円も返済額は増えません。
個人再生手続前の財産の状態は動かさないことが一番です。安易なパソコンやスマホの売却は控えましょう。
(2) パソコンの清算価値の計算
高級なパソコンを持っている方は、清算価値の計算方法について把握したほうが良いでしょう。
自己破産手続の配当では、生活に必要な財産のうちさほど高額でないものは処分されないことになっています。このような財産は「自由財産」と呼ばれています。この自由財産制度が個人再生、清算価値保障原則にも反映されるため、一定の財産は清算価値に計上されないことがあります。
たとえば、東京地方裁判所では、時価が20万円以下である財産は自由財産とされ、清算価値に含まれないという運用がされています。時価が最大でも10万円程度のスマホについて、清算価値に触れなかったのはこれが理由です。スマホはほとんどの場合、清算価値に含まれません。
パソコンの場合は、高級ノートパソコンであれば、本体だけで時価が20万円を超えてしまう可能性が十分あります。
しかも、20万円を超えるかどうかは、「パソコン関連」という「品目」について判断されます。
モニターや外付けハードディスク、自作パソコンに組み込んだ増設メモリやグラフィックボードの価値も、パソコンの本体価値と合算されたうえで20万円を超えるかどうかが問題になります。
複数のパソコンを持っていれば、全ての時価を合計して自由財産となるか判断されてしまいます。
もともと購入したパソコンの価値がさほどでなくとも、附属品や改造パーツなどの価値次第では、清算価値に計上されてしまう可能性が高くなるのです。
なお、以上はあくまで東京地方裁判所の運用です。裁判所によって細かい運用は異なっているので、自分のパソコンが清算価値に含まれてしまうのかは、裁判所の運用に詳しい弁護士に必ず確認して下さい。
4.個人再生後もスマホやパソコンを使い続けるには
今や、仕事や日常生活、どのような場面でも不可欠となったスマホやパソコンですが、個人再生手続に伴うデメリットの影響を受けてしまう恐れがあります。
不動産や自動車ほど高額になることは少ないため、清算価値に関しては、極端に心配する必要はありませんが、少しでも清算価値を減らそうとして、他人へ譲渡したり、財産として申告しないで隠したりすれば、最悪の場合、犯罪となりかねません。
実務上特に大きな問題となりやすいものが、スマホの契約解約です。事前の回避策の検討や、事後のプランの準備をしっかりしておきましょう。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を個人再生で解決してきた豊富な実績があります。どうぞ、お気軽にお問い合わせ下さい。
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